ホテルオークラ東京の思い出
現在、ホテル業界のある重鎮の講演内容を記事化する仕事をしています。その講演の中で、その重鎮は現役時代から「目配り・気配り・心配り」の「三配り」ができるよう、社員に教育してきたという話がありました。
さらに、そういったレベルの高いホテルマンがいるような「フルサービスのホテルが日本には不足している」という話も。
フルサービスのホテルというのは、客室だけでなく宴会場、レストラン、バーなどをひととおり揃えたホテルのことです。ホテルだけで滞在が完結する、と言えばよいでしょうか。
一番わかりやすい例を挙げると、帝国ホテル、ホテルオークラ、ホテルニューオータニの御三家がこれに該当します。大阪だとリーガロイヤルというハイレベルなホテルもありますね。
もう11年も前の話ですが、私が旅行業界誌の記者だった頃、ある国の政府観光局が主催するパーティーに取材で出かけました。その会場が、タイトルにもあるホテルオークラ東京だったわけです。
今日はその時に体験した、オークラのホテルマンの対応について触れてみたいと思います。
パーティーが終わり、観光局の広報担当の方にも少し話を聞いて、ひととおり取材が終わったので会社に戻ろうと、虎ノ門駅に最も近い出口に向かったところ、、、
外はゲリラ豪雨!
バッグに大きなカメラを入れるかわりに、折り畳み傘を会社に置いて出かけてしまったことを、激しく後悔しました。
すでに夜の8時を過ぎていましたし、会社ではデスクが私の戻り=記事を待っています。当時はノートPCを支給されておらず、ホテルのロビーで記事を書いて送って直帰、なんてこともできませんでした。今のように無線LANなんてほとんどなかった時代ですからね。
なので、どうしても会社に戻って記事を書かねばならなかったわけです。
困り果てていたところにホテルマンが通りかかったので、「傘が買える売店はありますか?」と尋ねてみました。
そのホテルマンは丁寧に売店への行き方を教えてくれたので、お礼を言って売店に向けて歩き出したところ、、、「お客様、少々お待ち下さい!」と呼び止められました。
バックヤードに消えたそのホテルマンを待つこと1〜2分。戻ってきた彼の手には、ビニール傘が握られていました。
その傘を私に差し出し、、、
「他のお客様がお忘れになった傘ですが、どうぞお使いください。保管期限が過ぎている物ですから、ご返却いただかなくても結構ですよ」
と言ってくれたのです!
何度もお礼を言って傘を受け取り、出口を出ようとする私に、、、
「どうぞお気をつけて」
という優しい言葉までかけてもらいました。
私、宿泊客でもなんでもないんですよ。たまたま取材で来ただけなんです。オークラにとっては1銭の儲けにもならない完全なガヤ。にもかかわらず、この対応です。
「突然の雨で困っているようだが、わざわざ傘を買うのも気の毒だ」と思って呼び止めてくれたのでしょう。
もう感激です。この瞬間にオークラファンになっちゃいました(笑)
これこそ前述の重鎮が話していた「三配り」だと思います。
虎ノ門駅まで歩きながら「いつかこのホテルにプライベートで堂々と泊まりに来れるような男になろう」と心の中で誓ったのを、今でも鮮明に覚えています。
あれから11年。まだまだ「堂々と」泊まりに行ける男にはなれていませんが、現在オークラが行っている本館の改修が終わる頃には、そうなっていたいと思います。
それでは今日はこの辺で。