ハドソン川の奇跡と『ハドソン川の奇跡』
今日、昼食を自宅で食べながら見ていたのが、ナショナル・ジオグラフィックで放映されている『メーデー!9:航空機事故の真実と真相』でした。
実際に起きた航空機事故を、関係者の証言やボイスレコーダー、フライトデータレコーダーなどをもとに、事故原因や再発防止策を紹介するドキュメンタリー番組です。
今日、放映されたエピソードは、“ハドソン川の奇跡”として知られるUSエアウェイズ1549便のものでした。
映画『ハドソン川の奇跡』としても上映中なので、ご存じの方も多いと思います。
一部ネタバレの要素を含んでいるかもしれませんので、この作品をまだ見ていない方はここから先は読まないことをお勧めします。私もこの映画は見ていませんが、『メーデー!』でトラブル発生からその後の様子まで知っちゃっていますから、たぶん見たいと思います(笑)
さて、映画の公式サイトでは、その日、英雄は容疑者になったなんて仰々しい惹句が踊っています。
要は、155人の乗客を救い国民から英雄とされた機長に対し、国家運輸安全委員会(NTSB)が「空港に引き返せたのではないか?」「危険な不時着水以外に選択肢はなかったのか?」という視点を交えて事故調査を行った、という話です。
判断ミスが疑われたのは、エンジン停止後、機長がエンジン再始動に約30秒を費やしたという事実があったから。実際にはエンジン停止時の高度は850mほどしかなく、素人が考えても空港に戻るのは無理だと思うのですが、調査官はあらゆる角度から調べるらしいですね。
まあ、映画だから仕方ないとはいえ、容疑者なんて言葉はいかがなものかと。ひねくれ者の私からすると、感動の押し売りをするための過剰な演出のような気もします。
『メーデー!』に出演していたNTSB調査官は、「機長の判断ミスを含むあらゆる可能性を検証しなければ、事故の本当の原因究明と再発防止策が立てられない」という内容のことを話していました。
同時に、「もし、機長の判断ミスが確定してしまえば、英雄視されてしまっているだけに、辛い発表をしなければならない、難しい調査だった」とも語っています。
少なからず、双方に葛藤はあったのでしょう。
NTSBの調査の結果、どの空港にも戻ることは不可能で、不時着水という機長の判断は正しかったことが証明されました。
むしろ、フライトに必要なコンピュータの動力源として、緊急時のマニュアルにはないAPUの作動といった機転を利かせたことが奇跡につながったのだ、ということもわかり、この機長の技量と判断力があらためて賞賛されることに。
このトラブルは、そもそもバードストライクによってエンジンが2基とも停止するというレアケースだったわけですが、NTSBは1549便に衝突した鳥がカナダガンであり、エンジンから発見された肉片のサンプルをスミソニアンに送り、DNAを調べることでどこに生息していた群れだったか、まで追求したそうです。
カナダガンの飛行域を明確にし、今後の同様の事故が発生するリスクをできる限り低くしよう、という意図があったとのこと。
映画はストーリーにメリハリをつけるためにNTSBを悪者のように描いているのかもしれませんし、実際にNTSBの調査姿勢に対し、反感を持って報道したメディアもあったことでしょう。
しかし、再発防止のためにNTSBが徹底調査を行っていたと思うと、映画がヒットすればするほどこの件を担当したNTSBの調査官は気の毒だなぁと考えてしまいます。
それでは今日はこの辺で。