旅行商品のブランドって、どれくらい意識してますか?
私が旅行業界誌の編集部に身を置いていた頃、旅行業界内でよく言われていたのが「旅行商品のブランドを周知して〜」みたいなことでした。
軽自動車雑誌の編集から転身した外様の私は最初、「旅行商品のブランド?」と全くピンとこなかったのを覚えています。
ここで言われているブランドとは、たとえば最大手JTBなら、海外旅行のパッケージツアー商品「ルックJTB」、国内旅行のパッケージツアー商品「エースJTB」といったものです。他社の海外旅行のブランドは、近畿日本ツーリストの「ホリデイ」、日本旅行の「ベスト」、エイチ・アイ・エスの「チャオ」、ジャルパックの「JALパック」、ANAセールスの「ANAハローツアー」などでしょうか。
まあ、正直言って、「今度のハワイはチャオで行こうか」とか「ルックJTBとANAハローツアーで迷ってるんだよねー」なんて会話は聞いたことありません。多くの人は「JTB?HIS?」と会社名で話すか、もっと生々しく「一番安いのはどれ?」というのがほとんどでしょう。私だってそんなもんです(笑)
さて、冒頭の「ブランドを周知して〜」という話の後に、よくこんなことを自嘲気味に付け足して話してくれる方が相当数いました。
「みんな躍起になってブランドブランドって言ってるけどね、ロゴを隠しちゃったらどこの商品かわからないもん。内容なんて似たり寄ったりなんだから」
事実、旅行商品には知的財産権の考え方がなく、ある会社が人気のパッケージツアーを開発すると、半年後には大手各社が追随して同じようなツアーが溢れてしまう、というのはよくある話でした。平たく言えばパクリです。
可哀想なケースは中小旅行会社です。専門的な知識や柔軟なアイデア、地道に築いたコネクションで一生懸命開発した中小旅行会社のツアーが人を集めると、大手が同じようなツアーを作ってしまうというものです。パンフレットの見た目は大手のものの方が立派でインパクトもありますし、販売店も全国各地にありますから、これでは中小旅行会社はたまったものじゃありませんよね。で、ブームを作るけれど、それが終わるとまたどこかに行ってしまう。まるでイナゴの大群です。通った後にはぺんぺん草も生えやしない。
クルマの仕事をしていると、クルマのエンブレムを隠しても、なんとなくどこのメーカーのものかわかります。何よりも、作り手に「絶対に他社に負けない独自性を持った最高のクルマを作ってやる」というプライドと気概がありますから、パクリは起きようがありません。
「S660にコペン!軽スポーツ復権なるか?」で触れたホンダ・ビートの開発者のコメントや、「自動車メーカー開発陣の情熱」で書いたようなプライドと情熱は、残念ながら私が取材していた頃の旅行会社の商品開発担当の方から感じることはほとんどありませんでした。
旅行商品にも知的財産権というか登録商標のようなものがあってもいいと思いますし、登録商標のように手続きが複雑で時間がかからない、独自の制度を業界団体の日本旅行業協会(JATA)あたりが提唱してもよさそうなのですが。
ここまで書いてきたことは、私が取材をしていた約8〜11年くらい前のことですので、今は変わってくれていることを願ってやみません。
それでは今日はこの辺で。