「ダークツーリズム」とは何ぞや!? 曖昧な定義の用語が独り歩きでは?
海外では「ツーリズム」という学問領域がある程度確立しているようですが、日本ではまだまだ新しい学問領域ですよね。
今でこそ多数の大学が観光学部や観光学科を設置していますが、私が大学受験した頃は皆無でした。(中央大学や慶應義塾大学で成功した「総合政策学部」が人気を博していた時代です)
観光系では、立教大学の社会学部に観光学科があったくらいでしょうか。
その観光学におけるパイオニア的存在である立教大学でさえ、観光学科を独立した観光学部にしたのが20年ちょっと前です。
その後、日本政府が「観光立国」を国策として打ち出し、訪日外国人旅行者の爆発的な増加とともに、さまざまな観光学の用語や理論も海外から流入してきました。
先日書いた「オーバーツーリズム」も、そのうちの1つであろかと思います。
こういったさまざまな考え方や理論が観光先進国から入ってくるのは、日本が本気で観光立国を目指すうえで喜ばしいことです。
その一方で、まだ定義すら怪しいのでは?と首をかしげたくなる用語も散見されるようになってきました。
今日、久しぶりに書店をブラブラしたときに見つけたのが、「ダークツーリズム」という言葉を含むタイトルの新書。(胡散臭くて買う気が起きませんでしたけどwww)
うっすらと聞いたことのある言葉でしたが、あらためてウィキペディアを見ると、「ダークツーリズムとは、災害被災跡地、戦争跡地など、人類の死や悲しみを対象にした観光のこと」とされています。
日本では東日本大震災後に注目されるようになった言葉のようで、国内旅行で言えば大津波の被害を受けた東北地方沿岸部や、福島原発の周辺地域、沖縄の戦争史跡を訪れるものが代表格のようです。
海外で言えば、チェルノブイリやアウシュヴィッツ強制収容所跡、グラウンド・ゼロなどがそれに該当するのかもしれません。
そういった場所を訪れ、平和や災害への備えについて考えを新たにする、ということなのでしょうね。
地震や津波の被災地はちょっと違うかもしれませんが、ダークツーリズムが対象とするのは、戦跡をはじめとする「負の遺産」という言葉で語られてきた場所が多いように感じます。
例えば、日本人に人気のグアムですが、太平洋戦争の激戦地でもあり、島内のあちこちに戦争の痕跡が残っています。
その意味では、グアムはダークツーリズムのど真ん中、といった場所なのでしょう。
ひねくれた性格の私は、ここで疑問を感じます。
では、つい先日訪れた川中島古戦場跡は、ダークツーリズムの対象なのでしょうか?
おそらく、ダークツーリズムを提唱する方々の定義では、こういう場所は入っていないと思われます。
ワーテルローやゲティスバーグ、関ヶ原といった古戦場はダークツーリズムの対象にならず、グアムや沖縄がダークツーリズムの対象となるその分岐点はどこにあるのでしょう?
私見ですが、ダークツーリズムが対象とするのは、現代に生きる私たちが想像し得る、「今に近い近現代史」におけるダークな場所のことなのではないか、と。
ダークツーリズムが対象とする基準を深く追求していくと、ナショナリズムや自虐史観といったものも見え隠れする気がします(邪推かもしれませんけどね)から、ここではあまり深く突っ込むのはやめておきましょう。
それにしても、「負の遺産」よりも「ダークツーリズム」の方が対象範囲が広そうですから、ある意味では使い勝手が良さそうです。
使い勝手の良い新しい言葉が出てくると、すぐに飛びつく傾向のある日本の旅行会社ですから、「ダークツーリズム特集」みたいなパンフレットや特設サイトでパッケージツアーを売るような会社が出てきそうな嫌な予感…。
誤解のないように言うと、私はダークツーリズムの精神を否定しているのではありません。
でも、日本人はこれまでだって修学旅行で戦跡などを訪れ、平和の大切さを学ぶということはやってきています。
今さらダークツーリズムなどといった新しい言葉によって、変な型に押し込める必要はないと思います。
この点においてはガラパゴス化で全く問題ないでしょう。
それでは今日はこの辺で。